【森に住む人の営みを知りたい人必見!】『林ヲ営ム』

オススメ本紹介

どうも、クロモジです

今回は、森林の中での人の営みに迫った『林ヲ営ム』(著者:赤堀楠雄/出版:農山漁村文化協会)を紹介します

本記事をオススメする人
・森林・林業について知りたいが何から読めばいいかわからない
・森の中での人の営みについて知りたい
・農林業の問題に触れすぎて暗くなりすぎたくない
・農林業の希望のある面を見て元気になりたい

本書の立ち位置:生産性よか木材の価値上げてこうぜ

林野庁が主体となって進める生産性の向上、木材活用のための木づかいなど様々な戦略としては…

  • 今ある木は全て伐って収穫
  • 建物つくるのに使えない部分を中心に、集成材などを作ろう
  • 林業機械を入れまくろう

上記のような取り組みを、私たちの税金を財源にした補助金で進めているものの、果たして本当に森の生き物や、木材の価値が持続的に保たれる取り組みなのか?

現場の取り組みや、林業家の生の声を通じて、本当にやるべきことを問うような内容でした

では、早速本書の内容に入っていきましょう!

読みどころ① 土地や状況によって森での営みは様々

「林業」でどういった作業をイメージしますか?
チェーンソーで木を伐ること?木を植えることでしょうか?


一口に林業と言っても…

  • 育てる:山、林業家・林業会社 ← 本書のハイライト
    約50年から数100年間、植える、手入れする(間引きやいらない部分を伐るなど)
  • 伐る:山、林業家・林業会社 ← 本書のハイライト
    チェーンソーで1本の木を切り倒し、その場で丸太単位に切り分けて、木材市場(大阪中央市場、豊洲市場の木バージョン)まで運び出す
  • 加工する:山の近く、製材会社
    木材市場で目当ての丸太をせり落とし、板にする
  • 使う①:山の近く~街中、建築・木工に関わる人 
    大工さん、工務店などに建材、家具用の材料、その他木材を使った製品の材料として卸される
  • 使う②:街中、消費者
    ホームセンターなどで板を購入する

様々な場所、人が関わって成り立っています
特に、本書では山によって様々な木の育て方があることがわかり、多様さに驚かされます!

例えば、雪が多い地域では、積もった雪の重みで木が倒れるのを和らげるために、植える場所を階段のように平らな段にして植える

植え方以外にも、丸太に切り分ける際、木材の価値を高めるために「どこで伐るか?」を見極めて伐っており、伐り方を考えるために製材所や工務店で求められているものを熟知しておく

他にも、先祖代々やってきた専業林家(林業だけで生計を立てている家)では、建物の柱になるような良い木材を育てるための密度管理により、樹齢100年にもなる巨木を育てるなど、心を込めた育樹をしているのだそうです

こうした各地の特色ある林業を知ることができると共に、どこも同じようなやり方で、同じような木材をつくろうとするのを後押しするような政策・制度を進めていいのか?という疑問を提示してくれるのが本書だと思います

おまけ:地域ごとに木の使い方も違う!木の使い方が気になる方はこちらの動画もオススメです

読みどころ② 林業家の技術力に感服

しかし、実際に木材の価格は低迷しているため、生産性を高めて収益を確保しなければならないというのが一理あるのは事実です

本書では、「各地の林業地でも生産性への取り組みは行っているし、品質も保証するぜ!」という各取り組みが紹介されており、本当に策士です!

例えば、先ほど出てきた専業林家では、木材価格が低迷する以前は「一本でも多く木を植える」という風潮が強かった中、材を運びやすくするために木材を運び出すための道をつけたとのこと
運搬しやすくなり、生産性が確保され、当主の奥さんも車両を運転して運び出しているそうです

三重県・速水林業では、造材(切り倒した木を丸太にすること)を担当する人が、木材を使う大工や工務店の求める材を把握した上で、伐る長さ・位置を決めて、少しでも木材の価値を高めるようにしています

長い目で見た経営や、木材を活かすための知識・技術をフルに使って、生産性も品質も保つ
本物の技術がないとできない芸当に職人味を感じること間違いなしです

読みどころ③ 林業家さんの森への想い+人柄もわかってポカポカする

最後に、地域ごとの森での人の営み、林業家さんの技術の深さだけでなく、人柄までわかるのが本書の推しポイントだと思います

森林・林業関係の本は、今まで色んな方が執筆されていますが、林学出身の私からすると…


「絶望の産業であることはわかったし、今の林野庁の政策への批判もわかったから、これ以上気分を暗くさせないでくれ」

ネガティブがさらにネガティブになるような書籍が多かったんです
(私が読めていないものもあるし、読了したものが偏っていた可能性もありますが…)

しかし、現状の林政に「ちょっとそれはどうなの?」と触れつつ、本書の中心は、森での想いと高い技術力を磨いてきた実践者の姿や声なんです

加えて、著者の林業家との関係性の築き方も手伝っているのか、林業家さんの人柄や努力など、林業の問題・現状を全体的にさらっただけでは見えないストーリーが出てくるのが人間味があって好感が持てます

もちろん、専門用語は出てきますが、親切なことに注釈もついています

初めて森林・林業の情報に触れる人はもちろん、森での営みを人に焦点を当てて知りたい方にオススメしたい書籍です!

もし、気になった方は読んでみてください

では、また

参考文献

『林ヲ営ム』,赤堀楠雄, 農山漁村文化協会, 2017.

・平成29年度森林・林業白書, 林野庁, 平成29年度 森林・林業白書(平成30年6月1日公表):林野庁

・令和5年度森林・林業白書, 林野庁, 令和5年度 森林・林業白書(令和6年6月4日公表):林野庁